ライブやろうぜ!ステージファイル Vol.47
渋谷 club 乙-kinoto-
- 渋谷club 乙-kinoto-について
- 2001年7月にオープンしたGATEWAYグループ3つめの箱。DESEO、高田馬場CLUB PHASEにつづく3つめの箱は、もう一方の「乙」の意味を込めて、内装から壁ペイントまでスタッフ手作りで作られた。オープン以来、バンドブッキングにこだわる姿勢でバンドからの信頼を集め、2016年の15周年記念イベントではkinotoにゆかりある人気バンドが集結。渋谷区桜丘町第二岡崎ビルB1Fには系列スタジオのDESEO、スタジオGATEWAYが集まる他、裏通りには新イベントスペース渋谷DESEO mini with VILLAGE VANGUARDも2015年にオープン
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[閉店] 渋谷区桜丘町3-3 第二岡崎ビルB1F
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ライブハウスの中の人に話を聞いてみた〜 渋谷club 乙-kinoto-編
このコーナーはライブハウスでバンドをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。
本日は渋谷club乙(キノト)店長の“じゃいあん”さんにお話をお伺いします。DESEO系列店の中では随分とカラーが違うお店ですよね。まずはオープンまでの経緯を教えてください。
2001年7月1日にオープンしたので、今年(2016年)で15周年になります。僕は3人目の店長なので、オープンの経緯に関しては伝聞になりますが。元々、この場所では「チェリーチェリーレコード」というインディーレコードショップをやっていたそうですが、DESEO、高田馬場CLUB PHASEに続いてもう1つライブハウスを作ろうと、スタッフが(内装やペイントを)手作りで作ったと聞いています。
DESEO他、系列店のなかでも異色の印象ですが、どのようなビジョンをもっていたのでしょうか?
DESEOがオープンした時代はバンドブームで、オーディションがあったり、ノルマが高かったりというハードルの高さがあったので、オーディションもなくデビュー戦が出来るような小さい箱、甲乙で言えば、乙みたいなポジションのライブハウスとして始めたようです。
なるほど、甲乙の乙…だったのですね!乙はバンド出演が多いのが目立ちますね。
そうするように努めています。うちは、イベンターさんへの箱貸しや学生のイベントがほとんどなくて、基本はバンドのブッキングです。スケジュールはほとんど、いわゆるインディーズバンドで埋まっています。
最近はバンドをメインとする箱が減少傾向ですが、硬派を貫いていますね。
はい、地味に硬派です(笑)。昔からそうだったので違和感は無いですが、途中から(バンドをメインに)振り切ろうとしましたね。また、単純に箱の作りがアイドル向きでない、という部分もあります。うちは楽屋がホントに狭いし、ステージも低くて見えやすいとは言えませんから(苦笑)。
最近はアイドルやアコースティックがメインになっている箱も増えていますね。
どこの店舗さんもそうだと思いますが、バンドのブッキングをメインやっている箱は厳しいんじゃないでしょうか。箱の利益を考えるなら、ホールレンタルやアイドル物もしっかりとやるべきかもしれないんですけどね。
やはりそうですか…。
ブッキングでは出演バンドを見にいらしたお客様の数が全てですから、アイドルのイベントみたいに2回まわしでドリンク代を稼ぐ、とか(笑)、そういうことも出来ないので。ブッキングでしっかりと売上を安定させるというのはなかなか難しいですね。
このバンドブッキングへのこだわりは評価されるべきだと思います。
他にも沢山あると思いますし僕らだけじゃないですけどね。現実的には、店長自身がオーナーのお店って少なくて、あくまでオーナーがいて、どこの店舗も、まず毎月の売り上げがあっての話なので、店のカラーにこだわるだけじゃ駄目な部分もあります。まあ、内情は色々あるので(苦笑)。
なんだかんだと、乙はじゃいあん店長のカラーが大いに出ていると思いますが(笑)。
乙の見え方はとても気を使ったつもりがあるので、そう言ってもらうとありがたいです。ただ、今は、ブッキングは他のスタッフ2人に任せていて、二人とも現役バンドマンで内容は素晴らしいですね。お世辞抜きで。僕自身は、深夜イベントを組んだり、面白い企画を絡めたり、イベント制作みたいなのが増えてますね。
最近の出演バンドのジャンル的な傾向はどのような感じですか?
15周年ワンマンに出てもらったようなバンド、ラウド系からハードコアパンク、それにレゲエも大好きなのでやっています。今はロキノン系が多いかな、いわゆるギターロックが一番多いですね。今の流行なのかもしれない。そういえば、この前僕がブッキングした高校3年生の女子バンドはむちゃくちゃ面白かったですよ!
女子バンドは最近さらに増えたらしいですね。
桜新町にある高校に、なんと部員が60人位いる軽音部があって。しかも全員オリジナルをやっていているんだそうです。さらには、山中湖とかに合宿に行って、毎日スタジオに入り新曲を披露する、みたいな活発な活動をしていて、これがなかなか上手いんですよ(笑)。
特訓レベルじゃないですか! 次世代のバンドも女子がひっぱるかもしれない。
あるかも(笑)。でも、そこは共学なので男子もいるそうです。THE BLUE HEARTSのベースの河口さんが軽音部を立ち上げたらしいですね。河口さん曰く『煙草ばっかり吸ってた』とのことですが(笑)。本当かどうかはわからないですけど。
若い世代がバンドをやっているというのは嬉しいニュースです。最近は学校の部活動でもバンド練習用の設備が揃っているとも聞きますし。
そうですね。今の学生世代は親がバンドブームのBOØWYやLUNA SEAを聴いていた世代になってきているので、バンド自体が世間に認知されたものになっているんでしょうね。少し昔は、バンドをやってるだけで白い目で見られる、という時代もありましたから。
15周年を記念してワンマンライブは全公演ソールドアウト
先ほど出てきました「乙15周年」イベントについて教えてください。そうそうたるバンドが集まりましたね。
乙にゆかりのあるバンド、乙に昔からよく出てくれていたバンドに、15周年を記念してワンマンライブをやってもらいました。このメンバー皆さん驚かれようで、チケットも全公演ソールドアウトしました。
9mm parabellum bulletからMEANINGまで出てるとはびっくりです。
MEANINGは当店系列店のTaU kitchenのスタッフで組んだバンドで、のちにELLEGARDENの高田(雄一)君が加入しました。Wiennersのベーシストは、うちの現役PAですし、9mmも乙によく出てくれていました。KNOCK OUT MONKEY、People In The Box、My Hair is Badなども東京に来た当初からブッキングさせてもらっていました。
ところで、9mm、People In The Boxは残響レコードからアルバムを出していましたね。
そうですね。僕は英語の通訳もやっていて、残響レコードの海外アーティストの通訳を全部やっていた時期があったんです。メールのやりとりや来日時の通訳など、外部委託として残響さんの仕事をしていました。あれは良い経験になりましたね。聴く音楽もとても広がりました。
それで残響レコードのバンドとも関係が深くなっていったのですね。
それは否めないかもしれませんね。乙にも数多く出演してもらっていますし、深夜にゲネプロで使ってくれたりもしました。そういう音楽的な繋がりのなかで、今の乙が、バンドメインのイメージになったところはありますね。
アメリカっぽいものが好きでアメリカ留学
つぎに店長と音楽の出会いについてお聞かせください。
僕は一時期アメリカに留学していたんです。WOWOWで見ていたオールディーズの映画が好きで、エルビスとかアメリカングラフィティとかにすごく惹かれて、何を話してるのか知りたくて勉強し始めました。そのうちにパンクが好きになって、セックスピストルズ(UK)も好きになり、ラフィンノーズ(日本)が好きになり…、でもザ・クラッシュ(UK)はよくわからず…。結局、アメリカっぽいものが好きだったんだと思います(笑)。それで、高校卒業後の94年にアメリカ留学しました。
アメリカ留学されていた94年頃というのはどのあたりの時代?
MTVにグリーンデイ、ウィーザー、オフスプリングとか…、ちょうどグランジが終わって、メロコアが出てきた頃ですね。他にヒップホップ、レゲエ、テクノなど、アーティストで言うとファットボーイスリム、ケミカルブラザーズなんかも出てきた頃で、ジャンル問わずたくさん音楽を聴きましたね。
バンドや楽器演奏はされてたんですか?
僕は秋田出身で、地元でバンドシーンがそんなに盛り上がっているわけでもなく、インディーズ情報を得られる機会もなくて、日本にいた頃から聴く専門でした。実は当時は、あまりインディーズシーンやバンド文化の事を知らなかったんです。
それが今や東京のインディーズシーンのど真ん中に。
そうなんですよね(笑)。その後、帰国して東京の会社に就職しました。当時DESEOには高校時代の同級生が働いていて、乙のブッキングスタッフとも知り合いになりました。最初はただ遊びに来る客だったのですが、そのうちに「ここ(乙)で働かないか?」と誘われたのがきっかけで、いつしかそのまま…(笑)。ちなみに当時DESEOにいた同級生は現在大塚Hearts+の店長です。
高校の同級生つながりとは、不思議な縁ですね。
27歳でここに入って、はじめは深夜イベントのブッキング担当とホームページ更新、その後、ドリンク、受付と一通りやったのですが、その間にあれよ、あれよとみんなが辞めていってしまい(笑)、3年で店長になっていました。それからは、かなりドタバタな日々で、制作でも音作りとか全く分からないので、最初はみんなが何を言っているのかわかりませんでした (苦笑)。
サラリーマンから音楽の世界に入って、実際どうでしたか?
サラリーマン時代は、大きな会社で給料も良かったんですが、仕事が大変なわりに、結局「自分が何をやっているか分からずじまい」でした。でも、ここ(ライブハウス)なら、例えば、良いイベントを組めば、当日に結果が分かる。自分の意志で作ったものが、結果として目の前に出てくる。仕事をやるというより、面白いものを作っている感覚です。その対象が人間だというのが面白いですね。やりがいがある。
どうせやるなら「かっこいいバンド」をやってほしい!
ライブハウスの、しかもブッキングメインの醍醐味でしょうね。
でも、どんなに入念にプランニングしても、絶対、思い通りのイベントは出来ないですね。5バンド思い描いていたら、3バンドしか決まらない。で、残り2バンドは想定していなかったバンドが入って…。でも、逆にそれがすごく良かったりする。ブッキングってそういうものだと思うんです。人間と人間が作った予想出来ない日々の積み重ねだと。
バンドが集まることで化学反応がおこるのですね。
仲良くやるだけだったら、自主企画で良いじゃないですか? 知らないバンドと現場を通して出会うのもライブハウスの面白さだと思うので、今後も色んなバンドが出会って欲しい。
嬉しいほど情熱的なハコです。それでは最後にメッセージをお願いします。
売れたいバンド、売れなくてもいいバンド、ただやってるだけバンド、僕は何でもアリだと思います。でも、どうせやるんなら「かっこいいバンド」をやってほしい!「かっこいい」って何かは難しいですけど、あくまでも目指して欲しいって事ですかね。そして、まだまだこんな良いバンドがいるんだぜ、ということを多くの人に知ってもらいたい。Webサイトのスケジュールにバンド音源の試聴やプロフィールを充実させて掲載していますし、音源の通販もできます。うちで出来ることはどんどんサポートしていきます。
バンドはもちろん、ライブハウスへ足を運ぶお客さんにとっても貴重な情報ですね。
ライブハウスは新しいものが次々と生まれる所。まだ表に出ていないけど、生まれたての良い音楽を発見しに、ぜひ遊びにきてください。乙はライブハウスで「楽しく遊べるお手伝いをしたい」箱です。
インディーズシーン最前線の熱気を感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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