ライブやろうぜ!ステージファイル Vol.84
高円寺 無力無善寺
- 高円寺無力無善寺について
- 高円寺ガード下、通称:高円寺ストリート6番街で、2000年頃からバーとしてスタートし、中央線沿線でも他に類をみない、摩訶不思議なライブハウスとして知られる。アーティストに求めるものは「ひらめき」。そう語るマスターの「無善菩薩」氏が綴るメッセージと可愛いさをミクスチャーした超個性派空間は、音楽・踊り・ポエム・パフォーマンス、融通無碍のアート表現活動の場。無善寺通常ライブ企画はドリンクつき出演者二千円、お客様千円と破格の料金設定。
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杉並区高円寺南3-67-1
TEL:090-9819-8408
MAIL:s017082@t.vodafone.ne.jp
ライブハウスの中の人に話を聞いてみた〜 高円寺無力無善寺 編
このコーナーはライブハウスでバンドをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。
"力"がない、"善"がない、"摩訶不思議"で「無力無善寺」
本日は高円寺無力無善寺マスター「無善菩薩」氏にお話をお伺いします。強烈な個性をもったアーティストが出演することでも有名な箱です。オープンはいつになりますか?
基本的に年月というものを数えてないので、はっきり覚えていませんが、おそらく2000~2001年頃です。当時は「無善法師」でしたが、2年くらい前から「無善菩薩」となりました。
屋号の「無力無善寺」という意味について教えて下さい。
無力無善寺の「無力」は、力が無い。自分は無力だということ。僕の周りの人がガンになってしまって、治療をしても何回も再発して、それに対して自分は何もできなかった。そういう事実があったことに由来しています。
「無善」というのは?
「無善」は、まさに僕のこと。自分の中には善がない。そして「寺」というのは「摩訶不思議なところ」という意味。あわせて、「力」がない「善」がない「摩訶不思議なところ」で「無力無善寺」の意味。
それにしてもすごいインパクトです。当初からライブハウスとしてオープンしたのですか?
いや、最初は音楽に全然興味がなかったし、バー営業のみだった。そのうちに、人と話すのが面倒くさくなって。お客さんの中にはミュージシャンが多くて、弾き語りをしたがる人なんかがいたので、好きなように演奏してもらうようになりました。
ジャンルは弾き語りが中心?
ノンジャンル、オールジャンルでなんでもあり。今でこそ、音楽がメインだけど、ライブを始めた頃はなんでもやっていましたよ。お笑い、パフォーマンス、ポエム、踊りなど、表現活動だったらなんでもやっていた。
シンガーソングライターの大森靖子さんをはじめ、著名なミュージシャンも出演されていたそうですね。
昔の話で、あんま覚えてないのだけど(苦笑)。お客さんとして来ていたところ、「せっかくだからライブやってみれば」と誘ったのがきっかけだったと思う。
無善菩薩さんもライブをされるのですか?
僕もやっていますよ。平日ライブは必ず出ている。参加しなきゃつまんないからね。
どんなライブをするのか気になります。
みんなとおんなじですよ。普通にギターを弾いたり、打ち込みでやったりと。
無善菩薩さんの「普通」が気になりますが(笑)。ちなみに、高円寺のこの場所にオープンした理由は?
雰囲気だね。昔のここらへんは、今みたいに賑やかじゃなくて、ジメジメしていた。そこがいいなと思って。
確かに、この20年で高円寺の駅周辺は激変しましたね。
ここらなんか、高架下で人通りがなくて、ほんとに暗い感じだった。
見たところ内装は吸音(防音)も施工されているようですね。
防音対策は、苦情が来てから力をいれるようになった。次に苦情が来たらアウトで、ここを出ていかなくちゃいけないんだよね(苦笑)。
高架下とはいえ、やはりバンドの音には苦情がきますよね。
苦情を言っていきたところは2軒あったけど、その2つとも潰れちゃった。
苦情を入れた2店舗が共に閉店とは、因果なものですね。
お店が暇だと、周囲の音が必要以上に気になるものなんだよ。お客が入っていれば、自分の店が賑やかになるからね。うちだって、誰もいなければ、下を歩いている音が聞こえるもの。
電車の音や人の声、匂いや雰囲気ひっくるめての魅力だと思います。
この街の高架下なんだから、飲み屋だって、賑やかで活気がないと意味がないでしょ(笑)。結局、繁盛しない理由を探していたんだと思うけど。まあ、どこのライブハウスも音の問題は抱えているとは思いますが。
音楽というのは思想の現れ。貼り紙も、説法も、音楽も同じ
それにしても、この内装と飾りは、無善菩薩さんの手によるものですか?
ほとんどそう。あれらの貼り紙も全部僕が書いたものです。
どのようなメッセージがしたためられているのですか?
宗教全般と、そこから派生する病を直す仕組み。たとえば、どうすれば病気は治るのか。それと、死の問題。これらの貼り紙には、その答えが書いてある。
死の問題…。
だって、「死」って大きな問題じゃないですか? それが解決できないことには、なにも解決できない。僕の「死」の定義として、根っこの部分では「死というものはない」という考えです。
宗教的な観念での「死」という意味?
それだけじゃない。死の本質的な真理に迫るためにはサイエンスの部分にも向き合う。そうしないと、わからないことに振りまわされちゃうから。それに基づいて定期的に新しいものを足していっています。
通常だと、宗教とサイエンス、音楽(芸術)を分断して捉えがちですよね。
音楽というのは思想の現れです。アーティストやミュージシャンは、音楽を通じて自分の思想、考えを表現するものだから、貼り紙のメッセージも、説法も、音楽も同じ。
自ら「表現者」となり、これらの問題に真正面から向き合う理由は何ですか?
アーティストやミュージシャンは「人を救う者」でないと意味がないから。もちろん、自分も救えて、人も救えるものを目指さない限りは無意味だけどね。
「ひらめき」をもつアーティストを育てるという思いでやっている
無善菩薩さんがアーティストに求めるものってなんでしょう?
「ひらめき」。これが最優先。
ひらめき、ですか。少しわかりやすく解説をお願いします。
近年はアーティストのレベルが低いんですよ。昔からアーティストとは優れた感覚で、人々を引っ張っていく存在だった。その「感覚」に影響を受けた、医学・科学・物理などのサイエンティストが、その答えを導き出した。それが、今はサイエンスの方が先に進んじゃって、それにアーティストの側が全然追いついてない。
なるほど、わかる気がします。
アーティストの感覚をつきつめると、それは「ひらめき」であり、それを持って、人々に影響を与える存在であるべきなんです。そのあたりを勉強していない。サイエンスをやっている人の方が、本当のことを見て、ちゃんと勉強している。
確かに、音楽やアートは、崇高なものより、個人的な趣味の領域に甘んじている時代かもしれないです。
それでも、「ひらめき」を持たなくてはだめですよ。人々に影響を与えるという意味で、宗教者もアーティスト。キリストやブッダの教えっていうのは、不滅ですからね。その「感覚」を大切にしてほしい。
多いに共感するところですが、現在の音楽業界の状況とかけ離れているように思います。現状をどのようにお考えですか?
ひたすら世間に合わせすぎですよね。いつの間にか音楽が商売だけになっちゃった。本質である「ひらめき」の部分がないがしろになっているので、魅力も何もないコンテンツばかり。もはや商品になってないものもある。
アーティスティックなものと商業的な視点のせめぎ合いが作品の完成度を高めるということはありませんか?
音楽とかアートは本来ビジネスツールではないでしょ。今の音楽業界は、宣伝さえすれば売れそうな人間を引っ張ってくるだけで、本当の「ひらめき」のあるアーティストを全然見つけようとしてないものばかりに思う。アーティストよりもレーベルなど業界側がしっかりやらないと自ら潰れていきますよ。
となると、アーティストを見つけて発信する側にも、本質を見抜く「感覚」が求められますね。
だから、うちでは「ひらめき」をもつアーティストを育てるという思いでやっている。彼らに練習の場として使ってもらってもいいし、真の本番の時まで、ここで鍛えて、そして次に行けばいいと思っている。だから、ある意味なんでもオッケー。見に来ている人だって、(ライブを)やりたくなったらやればいい。
無力無善寺は、日常生活で失われた「ひらめき」を取り戻す場にもなりそうです。
やり方はいくらでもあるから、自滅だけはしないように好きにやってみて欲しい。
やるからにはビートルズを越えて世界一を目指せ!
無善菩薩さんはずっと音楽活動をしてこられたのですか?
いや、それが全然やっていなかった。聴くには聴いていましたけど、それは一般の人たちと同じレベル。ここでライブをするようになってから、自分の表現も音楽に移行したんだよね。高円寺が音楽の街だった影響が結構大きいかな。
音楽をやってみて、ご自身に変化は?
今は、ノリにノッてます。世界に行くんじゃないかな(笑)。
世界とっちゃうくらいノッてますか(笑)!
そういう気持ちが大事。これまで誰もやったことのないことで世界をめざす。そういう気持ちがないんだったら本気でやるのはやめといたほうがいい。遊びなら、今まである音楽でいいじゃない?
何だか不思議と元気になれる空間です。それでは最後に無力無善寺からメッセージをお願いします。
やるからにはビートルズを越えて世界一を目指せ!その気持ちでいけば、もしビートルズを越えられなくても日本一くらいにはなれるはず。
高円寺の高架下に、ビートルズを越えるアーティストが集う日がやってくるかもしれません。奥深い話をありがとうございました。
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